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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7930号 判決

原告

日本赤十字社

右代表者社長

山本正淑

原告

甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士

北野幸一

右両名訴訟復代理人弁護士

大本力

被告

乙山太郎

右訴訟代理人弁護士

小林俊明

主文

一  原告らは、被告に対し、別紙事故目録記載の事故について、いずれも損害賠償債務を負担しないことを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告らに対し、別紙事故目録記載の事故(以下「本件事故」という。)について、損害賠償債権を有すると主張している。

2  しかし、右事故に基づいて損害賠償債権は発生しておらず、仮に損害賠償債権が発生していたとしても、原告らは、被告に対して休業損害、治療費、通院交通費等の名目で合計金四六万八八七二円を支払済みであるから、同債権は消滅している。

よって、原告らは、被告に対し、右債務の存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因2の事実中、被告が原告らから合計金四六万八八七二円を受領したことは認め、その余は争う。

三  抗弁

1  当事者

原告日本赤十字社(以下「原告日赤」という。)は、大阪府赤十字血液センターにおいて献血業務を行う法人であり、原告甲野花子(以下「原告甲野」という。)は、本件事故当時、右血液センター採血課所属の看護婦であった者である。

被告は、本件事故当時、仮枠大工等の日雇労働に従事しながら、画家を目指して勉強していた者である。

2  本件事故の発生及び経過

(一) 原告日赤は、平成六年三月六日、大阪市中央区所在のグリーンガーデン前路上において、献血の募集を行っていたところ、被告が、右募集に応じて四〇〇ミリリットルの献血を申し出て、被告甲野が、本採血に先立つ試験採血の担当者となった。

(二) 原告甲野は被告の左前腕部から二CCの試験採血をすべく、同部位に注射針を穿刺したところ、被告の左前腕部に電撃痛が走り、暫くして疼痛や痺れ感が発症したため、原告甲野に対してその旨訴えたが、原告甲野から「腕の細い人は血管に針が入りにくいため痛い場合がある。」「男の子なんだから我慢しなさい。」などと言われ、さらに「よく揉んでおくように」という趣旨を言われたのみであった。

(三) その後、被告は、本採血をするに当たり、医師にも左前腕部の痛みを訴えたところ、その医師から本採血は右腕なので大丈夫であるとの回答を得たことから、右腕から四〇〇CCの本採血に応じ、帰宅したものの、左前腕部の痛みは治まらなかった。

それどころか、被告は、同月一七日には荷物も持てない状態となり、同月一九日には肩から上に左腕が上がらない状態にまでなった。

(四) そこで、被告は、同月二二日、原告日赤大阪府赤十字血液センターに電話をかけ、試験採血した左前腕部の痛みを訴えたところ、右血液センター係長の阻害板持より子から財団法人住友病院(以下「住友病院」という。)を紹介され、診察した同病院医師中嶋洋(以下「中嶋医師」という。)から向後二週間(延期もあり得る)の通院加療を要する左前腕皮神経損傷との診断を受けた。

(五) その後も、被告は、中嶋医師による診療を受けていたが、左前腕部の痺れや激痛が続き、また、左腕の屈曲が著しく困難な状況であったため、同年一〇月中旬まで全く仕事に就くことができなかった。

3  原告らの責任原因

(一) 献血に際して採血を行う看護婦は、医師の指示に従って、献血者の身体に異常が発生しないように、採血の部位や注射器に加える力等に十分に注意して注射針を穿刺すべき注意義務があるのに、原告甲野は、右注意義務を怠り、被告に対する試験採血に当たり、医師の指示なくして、被告の左前腕部のうち穿刺してはならない部位に注射針を穿刺したか、又は注射器に加える力が強すぎたため、注射針で被告の内側前腕皮神経を損傷(以下「本件傷害」という。)させたものである。

(二) 原告日赤は、原告甲野を雇用し、前記のとおり献血業務を遂行させていたものである。

(三) したがって、原告日赤は、被告に対し、債務不履行又は民法七一五条の不法行為に基づき、原告甲野は、被告に対し、民法七〇九条の不法行為に基づき、それぞれ後述の損害を賠償する義務がある。

4  損害

(一) 休業損害

被告は、本件事故当時、ほとんど毎日仮枠大工等の日雇労働に従事しており、一日当たり金一万二〇〇〇円ないし金一万五〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故後、被告が再び就業した平成六年一〇月一七日までの六か月間、全く仕事に就くことができなかったのであり、一か月三〇日として少なく見積もっても金二一六万円の損害を被ったというべきである。

そうでないとしても、被告は、本件事故当時二〇歳の男子であるところ、平成二年度の賃金センサスによれば、二〇歳男子の平均賃金額は月額金二〇万二一〇〇円であり、一か月を二五日として一日当たりの賃金を算出すれば金八〇八四円となることから、被告が原告日赤から休業損害として金員の支払いを受けた日の翌日である平成六年七月一九日から被告が再び就業した平成六年一〇月一七日までの間のうち七五日分を積算すれば、金六〇万六三〇〇円となり、同額の損害が認められるべきである。

(二) 通院費用

被告は、本件傷害を治療するために、平成六年八月九日から平成七年六月九日までの間、住友病院に合計九回にわたり通院したのであり、そのための交通費として金六六六〇円を支出した。

(三) 治療費

被告は、前記のとおり、住友病院に通院して、診療を受けた結果、合計金二万七八四八円を支出した。

(四) 慰謝料

被告は、本件事故後、平成七年六月九日に中嶋医師から治療不要と診断されるまでの間、肉体的苦痛に耐えてきた。その間、原告らは、被告に対し、当初の態度を翻して、本件事故の責任自体を否定するなど不誠実な態度に終始したのである。したがって、本件事故によって被告が被った肉体的、精神的苦痛は、金一〇〇万円をもって慰謝するのが相当である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、被告が本件事故当時に仮枠大工等の日雇労働に従事しながら、画家を目指して勉強していたことは不知、その余は認める。

2  抗弁2(一)の事実は認める。同2(二)の事実中、原告甲野が、2CCの試験採血を行うため、被告の左前腕部に注射針を穿刺したことは認め、その余は否認する。同2(三)の事実中、被告が右腕によって四〇〇CCの本採血に応じたことは認め、その余は否認する。同2(四)の事実中、被告が平成六年三月二二日に原告日赤大阪府血液センターに電話をかけ、試験採血した左前腕部の痛みを訴えたこと、右血液センター係長の訴外板持より子が被告に住友病院を紹介したこと、被告が同日住友病院で受診したことは認めるが、その余は知らない。同2(五)の事実中、被告において左前腕部の痺れや激痛が続き、左腕の屈曲が著しく困難な状況になったことは否認し、その余は知らない。

3  抗弁3(一)のうち、献血に際して採血を行う看護婦には、医師の指示に従って、献血者の身体に異常が発生しないように、採血の部位や注射器に加える力等に十分に注意して注射針を穿刺すべき注意義務があるとの主張は認めるが、その余は否認又は争う。同3(二)の事実は認める。同3(三)の主張は争う。

4  抗弁4(一)の事実中、原告日赤から被告に対して平成六年七月一八日に金員を支払ったことは認め、被告が本件事故当時ほとんど毎日仮枠大工等の日雇労働に従事して一日当たり金一万二〇〇〇円ないし金一万五〇〇〇円の収入を得ていたことは不知、被告が本件事故から平成六年一〇月一七日までの間に全く仕事に就くことができなかったことは否認し、その余は争う。同4(二)及び(三)の各事実はいずれも知らない。同4(四)のうち、中嶋医師が平成七年六月九日に治療不要と診断したことは不知、その余は争う。

(原告の反論)

1  原告甲野は、原告日赤の献血業務に従事して九年目になるベテラン看護婦であり、これまでに試験採血において事故を発生させた経験などない。原告甲野は、本件事故時においても、採血の手順どおりに被告の左右の腕の血管を見分した上、左腕に駆血帯をかけ、穿刺予定部位を消毒するなどして試験採血したのであり、その間、被告からは何の訴えもなかった。その後、被告は、医師による問診を経て本採血をも終了したが、その間も被告からは何らの訴えもなかったのである。

2  仮に、試験採血時に被告が主張するような訴えがあれば、原告甲野は、マニュアルに従って、痛みの内容などを確かめる必要があるところ、かかる事実は存在しない。

また、被告が主張するような激痛などが発症すれば、到底辛抱することもできず、まして本採血を受けることなどできないはずである。

3  皮神経損傷は、静脈穿刺の目的で、注射針を皮下に入れた時に皮下にある神経に触れて、その神経を傷つけるものが主であるが、損傷を受けた瞬間にすべての症状が発生し、時間の経過とともに、その症状が強くなることはないのが通常である。また、皮神経は知覚神経であるので、その損傷によって運動傷害を起こすことはない。仮に、皮神経損傷が生じたとしても、四、五日、長くて二週間で完治するものである。この点、被告の主張によれば、本件事故後、症状が強くなっており、また、左右の握力差が顕著にでているにもかかわらず、平成六年三月二九日のカルテによれば、手指や手関節に拘縮が認められず、前腕の筋群の筋力低下も僅かであって、その経過は極めて不自然である。

4  前腕皮神経は、それよりも太い神経繊維の束(太さ一ミリメートル程度)からなり、掌側尺側(内側)には内側前腕皮神経が皮膚から比較的浅い皮下脂肪層を通過し、静脈周辺を通過する部分もあるところ、静脈穿刺をする際、静脈周辺の皮神経の部位は確かめようがないので、本件事故において、仮に皮神経に注射針が触れたとしても、それは不可抗力である。

5  以上の次第で、原告らは、本件事故について、(1)本件傷害はそもそも存在しなかった、(2)仮に、本件傷害が存在したとしても、原告甲野の試験採血と間に因果関係はない、(3)仮に、因果関係が存在したとしても、原告甲野に被告の主張するような過失はない旨を反論するものである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  被告が原告らに対して本件事故について損害賠償債権を有すると主張していることは弁論の全趣旨から明らかである。

そこで、原告らの損害賠償義務の有無について判断する。

二1  抗弁1(当事者)の事実中、原告日赤が、大阪府赤十字血液センターにおいて献血業務を行う法人であり、原告甲野が、本件事故当時、右血液センター採血課所属の看護婦であったことは当事者間に争いがなく、証拠(乙九、被告本人)によれば、被告が、本件事故当時、仮枠大工等の日雇労働に従事しながら、画家を目指して勉強していた者であることが認められる。

2  抗弁2(本件事故の発生及び経過)について

(一)  原告日赤が、平成六年三月六日、大阪市中央区所在のグリーンガーデン前路上において、献血の募集を行っていたところ、被告が、右募集に応じて四〇〇ミリリットルの献血を申し出たこと、原告甲野が、本採血に先立つ試験採血の担当者となり、被告の左前腕部から二CCの試験採血を行うため、注射針で穿刺したこと、その後、被告は、右腕から四〇〇CCの本採血に応じて、帰宅したこと、被告は、同月二二日、原告日赤大阪府赤十字血液センターに電話をかけ、試験採血した左前腕部の痛みを訴えたところ、右血液センター係長の訴外板持より子から住友病院を紹介され、住友病院で受診したことについては、当事者間に争いがない。

(二) 証拠(甲一、乙一の1)によれば、住友病院の中嶋医師が、平成六年三月二二日に被告を診察し、向後二週間(延長もあり得る)の通院加療を要する左前腕皮神経損傷である旨診断したことが認められる。

そして、証拠(甲一、乙一の1ないし10、五、宇田証人)及び弁論の全趣旨によれば、試験採血時の注射針は直径0.4ミリメートルであるところ、皮膚上の針刺入痕は一週間もすれば消えてしまうこと、中嶋医師は、本件事故後六日目に被告を診察し、その左前腕尺側近位部の肘に近い部分に針刺入痕一個を認めたが、右刺入痕以外に刺入痕や創傷痕などの異常は認めらなかったこと、さらに右刺入痕とほぼ同じ部位にティネル症状を認めたが、この症状は、右刺入痕の直上に検出されていること、解剖学的には、右の部位には内側皮神経が走行していることなどが認められ、また、証拠(乙九、A証人、被告本人)によれば、被告は、本件事故当時、婚約者であった訴外A(以下「A」という。)と共に、原告日赤の献血に応募したこと、原告甲野が、被告の左腕上部から試験採血を行うべく、注射針を穿刺した瞬間、被告は、喉から絞りあげるような声で「痛い。痛い。」と言ったこと、この時、被告は、左腕の付け根から親指の先端まで、激しい疼痛及び痺れ感を感じたこと、本採血を終えた被告は、Aに対し、本採血をした右腕には異常がないが、試験採血をした左腕の疼痛を訴えたことが認められる。

甲第五号証(原告甲野の陳述書)及び原告甲野本人は、被告からは試験採血時及びその後に疼痛を訴えられたことはない旨供述するが、証拠(被告本人、A証人)によれば、Aは本件事故後に被告との婚約を解消しているのであって殊更被告に有利な証言をする事情も窺えず、そのA証人の証言及び前記認定事実に照らせば、原告甲野の右供述部分は信用することができない。

(三) ところで、証拠(甲二、三、乙五ないし八、宇田証人)によれば、以下の事実が認められる。

(1)  献血等で注射器を使用して静脈から採血する際、注射針が、静脈のごく近傍を通過している前腕皮神経の繊維網を損傷することがある。右損傷の機序は、注射針の先端部が鋭利な刃の構造をしている結果、注射針が皮神経の繊維網の位置まで穿刺されることで、皮神経の繊維網が断裂したり、一部損傷を受けることである。

(2)  皮神経損傷が発生した場合、前腕皮神経は、運動神経繊維を含まない知覚神経であるので、その損傷時には、神経損傷による直接的な運動麻痺を生じることはなく、したがって、筋萎縮及び関節可動域の減少等の症状を生じることはない。しかし、知覚神経を損傷した結果、症状として、穿刺された瞬間、穿刺された部位を中心として、灼熱感を伴う疼痛を感じ、その程度は、通常の注射や採血の場合と比較して相当に大きく、その後、損傷を受けた当該皮神経の知覚領域につき、痺れ感、知覚脱失、知覚鈍麻及び違和感が発生し、脱力感に伴う筋力低下及び運動障害などが生じることがある。

(3)  皮神経損傷が発生した場合、神経の末梢方向に向けて、放散痛を伴うティネル症状が発生する。知覚神経の再生速度は、臨床的には一日約一ミリメートルとされている。

(4)  しかし、前記灼熱感、疼痛、放散痛は、穿刺時が中心であり、漸次緩解する。もっとも、疼痛の程度については、個々人による感受性や、不安や心理的な影響による増幅もあり、客観的なレベルを外部から推定することは困難を伴う。また、痺れ感、知覚脱失、知覚鈍麻及び違和感なども神経の皮膚支配域への再生により漸次回復する。

(四) 以上認定した各事実を総合すると、中嶋医師の診断には合理性が認められる上、原告甲野の試験採血時からの被告の対応や中嶋医師により認めた被告の左前腕部の症状は、皮神経損傷の原因、症状と齟齬しないことなどからみて、原告甲野の採血行為によって本件傷害が生じたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

もっとも、被告は、本件事故後、左腕が肩より上に挙がらなくなり、左前腕部の痺れ感や激痛が続き、左腕の屈曲が著しく困難な状況にあったことから、本件傷害が重篤なものであった旨主張し、甲第一号証によれば、被告が中嶋医師に対して、平成六年九月二日の診察時まで、左前腕部の痺れ感を訴えていたこと、住友病院での被告に対する握力測定で、同年三月二九日には右手四四キログラム、左手6.5キログラム、同年八月九日には右手三五キログラム、左手五キログラム、同年八月九日には右手三一キログラム、左手九キログラムとなっており、左右で著しい差異があることが認められる。しかし、証拠(甲一、乙五、宇田証人、A証人、被告本人)によれば、中嶋医師は、被告に対する初診時において、軽減傾向を認めていること、平成六年三月二九日における手関節と手指の伸展と屈曲、前腕の深指屈筋の筋力の測定において左右に差異はなく、運動障害は認められないこと、被告は、本件事故後も外出し、ビラ張りなどの軽作業に従事していたことが認められ、これに前記(三)で認定した事実を考慮すれば、被告の右主張を認めるに足りる証拠はないというべきである。

3  抗弁3(原告らの責任原因)について

(一)  そこで、原告らの責任原因について判断する。

献血に際して採血を行う看護婦には、医師の指示に従って、献血者の身体に異常は発生しないように、採血の部位や注射器に加える力等に十分に注意して注射針を穿刺するべき注意義務があることについては、当事者間に争いがない。

しかし、証拠(甲五、乙五ないし八、宇田証人、原告甲野本人)によれば、原告甲野は、准看護婦の資格を有し、本件事故当時、献血業務に従事して九年目であったこと、原告甲野は、被告に対する試験採血においても原告日赤が定めたマニュアルどおりに、被告の左右の腕を見分した上、左腕に駆血帯をかけて静脈に注射針を穿刺することにより採血したこと、試験採血においては、静脈に注射針を穿刺して注射器を軽く吸引するだけであること、穿刺予定部位は前腕部尺側(内側)であること、前腕皮神経は、それよりも太い神経繊維の束(太さ一ミリメートル程度)からなり、尺側には内側前腕皮神経が皮膚から比較的浅い皮下脂肪層を通過し、静脈周辺を通過する部分もあるところ、注射器の使用による神経の損傷は、橈骨神経、坐骨神経及び正中神経に関しては、その部位を予見することによって神経損傷を回避することができるが、前腕皮神経に関しては、静脈のごく近傍を通過している前腕皮神経の繊維網を予見して、その部位を回避し、注射針による穿刺によって損傷しないようにすることは、現在の医療水準に照らしおよそ不可能であることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、原告甲野の採血行為から本件傷害が生じたことはこれを認めることができるとしても、原告甲野に、被告の皮神経を損傷しない部位を注射針の穿刺箇所として、選択することを要求することは、現在の医療水準では不可能であり、その他、原告甲野の採血行為に前記注意義務を怠ったことを認めるに足りる証拠はなく、結局、原告甲野の採血行為に過失を認めることはできない。

(二)  したがって、その余の事実について判断するまでもなく、抗弁は採用することができないというべきである。

三  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由があるから認容し、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官白井博文 裁判官片山隆夫 裁判官奈良嘉久)

別紙事故目録〈省略〉

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